小さな都市としてのキャンパス —共有性と公開性—


 大学の起源はヨーロッパ中世に遡り、最古の総合大学とされるポローニャ大学など、都市の街角や教会に学ぶ人々が集まったことから発展したとされる。このことからも分かるように、大学キャンパスとその建築は、単に、授業や実験に使うためだけの機能を満たすものではなく、人々の対話にもとづく交流を本質をしている。

 

 そこでは、学内と学外を含めた利用者が様々な活動をしており、多様な人々に「共有される空間」(コモンスペース)が重要となる。また、そこでの活動は、一室に留まらず、隣の室や廊下と繋がり、建物の中だけでなくテラスやピロティ等の建物に付随する外部空間や、キャンパスの広場へ発展し、さらに、都市の街路や交通へと連続する。こうした建物の内外にわたるキャンパスコモンの連鎖に、人々の交流を可能にする空間特性があり、都市空地に対して「公開される建築」としての大学キャンパスの建物が成立している。

 

 このことは、建物内部の公開される空間と、街路や広場などの外部空間との連続性を示したノリによるローマの地図に示されるように、都市空間にもなぞらえる事ができる。つまり、大学の建築は、キャンパスといういわば「小さな都市」において、空間の共有性と公開性をもとに成立している都市建築のひとつのモデルであると言える。特に、近年の大学キャンパスの建物は、都市活動に匹敵する多様な活動を内包しており、ティーチング(教える、教わる)からラーニング(主体的に学ぶ)への教育の展開や、分野横断や産学連携の革新的な研究(イノベーション)の探求、地域コミュニティとの連携による社会貢献などを背景に、従来の講義棟や、研究棟、事務棟、図書館、実験工場、宿舎、食堂といった、用途別の各種建築では捉えきれない空間が出現している。

 

 大学キャンパスとそこに立つ建築は、人々が空間を複合的に共有する「都市の縮図」であり、また、都市空間の構成物として「都市の部位」である。それらは、社会や時代に応じて、空間の共有性と公開性をもとにリデザインされ、都市建築としてのキャンパス建築、都市デザインとしてのキャンパスというように、都市のモデルとして位置づけることができる。そこには、大学の起源から未来へと紡がれていく都市組織としての可能性をみることができる。

 

(まちのようにキャンパスをつくり キャンパスのようにまちをつかうー大学キャンパス再生のデザイン,日本建築学会編, 2020年3月、3章5節 担当執筆抜粋要約)